トップランナーが市民ランナーと触れ合うということ

5月28日に行われた第37回河北新報錦秋湖マラソンのゲストランナーとして相変わらず積極的に走っている川内優輝選手(30)。

埼玉県庁所属の川内選手が、4月23日に行われた『ぎふ清流ハーフマラソン』レース後の記者会見で、レース後市民ランナーとハイタッチをするなどして触れ合うことについて熱く語りました。公務員とランナーの二足のわらじの川内選手が提言するトップランナーと市民ランナーの良い関係性の築き方とはどういったものなのでしょうか。

公務員ランナー川内優輝選手

東京都世田谷区生まれの川内優輝選手は、小学校入学前に埼玉県北葛飾郡鷲宮町(現・久喜市)に転居しました。その後、埼玉県立春日部東高等学校を経て、学習院大学に進学。大学時には関東学連選抜として2度箱根駅伝に出場しています。この箱根出場は学習院大学在校生初の快挙でした。

大学卒業前の2009年2月に開催された別府大分毎日マラソンで20位、3月に開催された東京マラソンでは19位に入ったものの、実業団には進まず、当時陸上部がなかった埼玉県庁に入庁します。
その後、『公務員』と『ランナー』二足のわらじをはきながらの活躍は皆さんも周知の通りだと思います。

最近の川内選手はというと、2016年12月に開催された福岡国際マラソンで2時間9分11秒で日本人トップ(全体3位)となった事が評価され、今年の8月に開催される世界陸上の日本代表に選出されています。
福岡国際は11月に生じた右ふくらはぎ痛、大会2日前の左足首捻挫、という絶体絶命の状況を乗り越えての快走でした。

5月7日のプラハマラソンでは、30km過ぎで転倒しながらも2時間10分13秒で6位に。翌週5月14日の仙台国際ハーフでは、前半のハイペースについていくことができず11位。しかし「調子は悪くない」と本人談。
相変わらずの積極的なレース参戦、世界選手権へ向けて今回も独自に調整を進めています(6月、7月にも海外フルマラソン4本を予定)。

ロンドンを「日本代表として戦う最後の世界の舞台」と位置づけている川内選手。このまま東京オリンピックに挑戦する川内選手を見ることができないのは寂しいですが、その分、ロンドンでの走りをしっかり目に焼き付けておきたいところです。

川内選手のランナーとの触れ合い

冒頭で述べました、川内選手の『ぎふ清流ハーフマラソン』のレース後の記者会見でのコメントをまとめると、下記の通りになります。

「レース中、川内頑張れ、ロンドンでも頑張れ、と、声をかけていただいたが、レース中なので手を振ることも挨拶もできない。でもレース後なら僕もハイタッチなど、応援してくれている人たちとコミュニケーションをとる事ができる。レース中に応援していただいて力を与えてくれたのだから、レースが終わったら今度は僕が返す番だと思う。数年前にこの大会で偶然的にハイタッチが始まったけれど、今は単純にお祭り気分で楽しんでいる」

さらに、こう続けます。

「弱い時、強い選手の走りを目の当たりにしてすごさを感じると同時に、レース後すぐにサーッと帰ってしまう強い選手に対して疑問を持っていた。レース前の集中したい時に、サインや写真撮影を求められて困るのであれば、レース後にそれを可能な範囲内でやれば、レース前はもっと集中できる状況になると思う。

マラソン選手はクールと言われるが、レース後、もっと市民ランナーや、沿道で応援してくれる人と触れ合う事ができると、陸上界の為になると思うし、ランナー自身の為にもなると思う。その一環としてレース後のハイタッチをしている」

実業団ランナーはプロ?

プロスポーツ選手とは一般的には『個人事業主』です。実業団ランナーはというと、所属企業によって様々だとは思うのですが、『個人事業主』ではなく、なんらかの形態で『雇用』されているケースが多いです。そういった意味で「プロスポーツ選手としての振る舞いは必要ない」という考え方も一理あるかもしれません。

しかし、実業団ランナーは『広告塔』です。『見てもらう』『知ってもらう』為に走り、それに企業はお金を出しています(ランナーにお金を使っています)。そういった部分を踏まえると、プロスポーツ選手としての振る舞いも必要なのではないでしょうか。プロ野球選手やJリーガーは試合後、スタンドに挨拶に行ったりボールを投げ入れたり、ハイタッチしたりしていますよね。プロゴルファーは試合後、サイン会を開いたりします。

有森裕子さんや、高橋尚子さんなどのメダリストをはじめ、引退した有名選手は、レースに参加したり、レース後市民ランナーと触れ合うなど、『走るって素晴らしい』と思ってもらえるような活動をしています。現役選手も同様の活動をしている選手もいますが、そのような選手がもっと増えると長距離界の発展に繋がるのではないでしょうか。市民ランナーとトップランナーが互いの事を尊重しあって、よりよい関係性を築いていってもらいたいですね。

他のメジャースポーツの比較にならないぐらい試合後の疲労感がある中でなかなか難しいところがあるとは思いますが……