サブ20日で本州縦断を達成、最速記録を更新した福井俊治インタビュー

日本で開催されている最長距離のランニング大会といえば、NPO法人スポーツエイド・ジャパンが主催している「本州縦断・青森~下関1521kmフットレース」。

制限時間は720時間(30日)。参加費4,000円。34ヶ所の指定CPを通過すれば、どのルートを通っても可能。スタート、ゴール、エイド、レストは本人次第というジャーニー大会の極み。この気の遠くなるような距離のジャーニーレースが今年は俄に盛り上がっており、次々と新記録が出ています。

5月14日に福井俊治さん(46歳/茨城県)が437時間28分(18日と5時間28分)、大会史上初のサブ20日で完走。去年、今正寛さんが出した最速記録の498時間11分を大幅に更新しています。

5月19日には小田克矢さん(49歳/東京都)が462時間34分で完走。福井さんに次ぐ好記録でゴール。

6月9日には高木薫さん(72歳/東京都)が663時間5分で完走。それまで大川竹志さん(65歳)がもっていた最高齢完走記録を更新しています。

今回は、本州縦断初のサブ20(20日切り)で完走された福井さんにお話を伺ってきました。

5月14日 下関にゴールした福井さん

平均睡眠2時間の日々

都内の喫茶店での初対面。身長は175cm程で細身。頬骨が出た顔は日に焼けており、いかにもウルトラランナーの風体。

福井さんは、茨城にある大手企業に勤めるエンジニア。繁忙期の平日の平均睡眠は2時間弱という激務をこなしながら、通勤ランで走力を保っているとのこと。

生まれは兵庫。中学、高校は陸上競技部に所属し、1,500mなどの中・長距離を専門に走るも結果はいまひとつ。遅いながらも走ることが好きなため、現在も走っており記録は伸びている。

ベストは、ハーフ1時間32分(2015)、フル3時間21分(2017)、100km10時間1分(2015)と、いずれも近年にマークしているが、「大して速くもない平凡なランナー」と本人。

このフットレースへの参加きっかけは?

「2015年11月に会社の先輩がこの大会(本州縦断フットレース)の完走者をテレビで見て自分に教えてくれました。当時、自分は100kmマラソンやアイアンマン、富士登山競走など普通の人からするとちょっと変わった競技に出場していたので、この異常に長いレースに興味があると考えたようです。

まぁ、普通のサラリーマンに30日間連続休暇(制限720時間)なんてありませんよね。

でも、ふと思いつきました。たまたま勤続20年の褒賞休暇が5日あったので、GWの10連休の前後に有給休暇を2日合わせて、19日間(456時間)であれば何とか作れるなと。

それから、19日間で完走するプランを練り、2016年大会にエントリーしました。」

最初から最速記録狙いですね!(笑)

「まぁ、そうですね。自分にはこれしか時間が無かったので、狙うと云うよりも仕方ない感じです。」

それまでの最長距離は?

「毎年年末に一人で100マイル(正確には180kmのロード)を24時間以内に走るというチャレンジをやってて、それが最長です。でも、過去2回はいずれも118km、101kmでリタイヤ。寒さに負けました。
2016年末には、制限時間は3時間オーバーの27時間30分でしたが初完走しました。なので、2016年の初のフットレース挑戦時には118kmが最長距離です。」

大会資金を補うためにクラウドファンディングにも挑戦されてますね。

「本州縦断も初めてですが、クラウドファンディングも初めての挑戦でした。今年もファンドを集ったのですが、去年に続き失敗しています。でも、クラウドファンディングを通して新しい出会いがあり、個人的にサポートいただける方にも会いました。挑戦が一人でなくなると頑張れますし、新しい出会いがあったので、やってみて良かったと思います。」

クラウドファンドで遠征支援をよびかける

福井さんの初めての本州縦断の旅は2016年4月27日にスタート。残念ながら、3日目の約230km地点で右足すねの激痛(後に疲労骨折と診断)によりリタイヤとなります。

「悔しかったですね。それまで、連日走る経験など無かったので、今から考えると色々知識や経験が不足していました。疲労骨折の原因はよくわからないのですが、走り過ぎではなく、練習不足からくるものだと思います。

失敗したことで現実逃避したい気分になりましたが、色々な方から声かけいただき、その後、良い準備期間だったと前向きに考えるようにしました。」

2回目のチャレンジ

前回と設定タイムは同じですか?

「2回目の目標も456時間にしました。前回失敗していますが、会社に迷惑をかけるのは最低限にしたい気持ちから変更しませんでした。

ありがたいことに昨年消化しなかったので褒賞休暇と同じ期間の連続休暇取得を周囲に許して頂きました(笑)。なので、次もゴールデンウィーク前後を考えました。
フットレースに再びエントリーし、目標を設定したことで、忙しくても前向きに考えることができたように思います。」

過去のブログを拝見していると本当に忙しくて寝てないですね。

「相変わらず忙しく、6時間睡眠どころか益々睡眠時間が短くなる日々も続きましたが、走ることは継続していました。

スタート月の前月の3月頃は、平日の平均睡眠時間が1.5時間でしたが、それでもストレス解消のためと、本州縦断の高負荷下での走行をイメージしつつ毎日2時間(約20Km)は走っていました。酷い時は45分しか寝てないのに2時間走ってました…
2月には600km、3月は1000kmの目標に対して729kmでした。3日連続80km走るシミュレーションも行いました。」

毎日が過酷ですね。

「寝れないのはストレスになります。寝なくても平気というのは今回のような過密なスケジュールのジャーニーランでは良かったと思います。」

他に何か取り組まれましたか?

「今回、心強かったのは、縦断完走者の3人の方から体験談を聞くことができたこと。その体験を疑似体験として取り込んで自身のチャレンジに反映できました。久保弘樹さん、大坪実さん、坪内俊之さんから必要な装備、時間の使い方、休憩の仕方などについてお聞きしました。直接お会いしての話はリアリティが有りとても参考になりました。同時に、改めて自分が経験不足ながら大きな壁に挑もうとしているということも確認できました。

2回目の挑戦ですが、リベンジとは思わないようにしようと考えていました。初年度は失敗して、そこから自ら学んだり、経験者からの教えを得て、2年分の応援者の力をお借りして完走するという山あり谷ありのストーリーなんだと考えるようにしました。」

今回の装備について教えてください。

「装備は1回目の装備とほぼ同じです。水500ml含めて3.5kg前後です。」

【ウェア】
・ 上下 CW-Xの機能性タイツとトップスのコンビ
・ 下着 CW-Xのスポーツショーツ
・ ソックス CW-Xのテーピング効果のあるもの、5本指タイプとノーマルタイプの2種類(ほぼ5本指タイプを使用)
・ 他 スキンズのアームカバー、グローブ、オークリーサングラス

【シューズ】
・ 前回 アディゼロ ジャパン ブースト3
・ 今回 スイスブランドのOn クラウドクルーザー

【ザック】
・ Salomon S-LAB ADV SKIN3 + Salomonウェストポーチ

【ザック内容】
・ ウインドブレーカーレインウェア上下(モンベルのサンダーパス)、防寒用にフリース、キャップ、グローブ、タオル
・ カロリーメイト、塩タブレット、水筒(ソフトフラスク500ml)
・ テーピング、日焼け止め、リップクリーム、化膿止め軟膏、胃薬、メモ、ペン、ハサミ、バンドエイド小多数、バンドエイド大少量

【ポーチ内容】
・ iPhone(ナビ、メール、電話等々)、充電器、充電ケーブル、イヤホン
・ クレジットカード、現金、キャッシュカード、免許証、保険証
・ 紙地図、使い捨てコンタクト×19×2(左右)
・ ヘッドライト、予備電池、ジップロック×2

オークリーサングラスは奥様からのプレゼント

On クラウドクルーザー
紺が前半、黒が後半

On クラウドクルーザー ソールの減り具合

Salomon S-LAB ADV SKIN3
Salomonウェストポーチ

大容量のモバイルバッテリー
着替えは無しですか?

「はい。下着のみです。できるだけ軽量化したかったので。宿泊先についたら浴衣に着替えて洗濯しました。」

充電池が大きい(重い)ですね。(充電池他を詰め込んだ)ポーチの重量が重いようですが。

「iPhoneをナビとして使っていたので大容量の電池が必要でした。重いですが電池を交換する手間を省きたかったのでこれにしました。1日中給電していました。

ザックを下ろす手間を省くために、色んなものをポーチに入れた結果重くなりました。脇のスレですか?とくに無かったです。」

シューズを前回から変えましたね。

「(前回)アディゼロは好きだったので選びました。今考えるとちょっと無理ですよね。それくらい無知だったんです。
On(シューズ)はソールが長距離走に向いているということで決めました。
中間地点あたりでソールの減りが気になったので途中で交換しました。同じものを通販で購入して、かみさんに宿へ送ってもらいました。」

行動時間が20時間を超える日も

19日間のプランについて教えてください。

「19日で完走するには1日80km走る必要があるので、80km前後でコース上の宿泊地を決め全部予約しました。区間によっては100km超える場合もあります。宿泊地がコースから少し離れた場所もあるので+1~2kmは仕方ないです。

目標タイムはキロ10分、遅くともキロ11分と考えていました。歩きを交えて、きつくならないようにしました。しかし、実際にはもっと掛かりましたが…
最初はペースコントロール(飛ばし過ぎない)のために心拍計を使っていたのですが、上限心拍数にまったく到達しなくなったので途中で送り返しました。

10日目あたりに3日連続90kmを超える場所があり、ここがポイントだと考えていました。」

4月26日 青森を出発

完走記録

日付 距離 行動時間 キロスピード
4/26(水) 83.86Km 13時間20分32秒 9:33
4/27(木) 94.65Km 15時間17分12秒 9:41
4/28(金) 72.74Km 13時間27分06秒 11:06
4/29(土) 92.94Km 16時間13分47秒 10:29
4/30(日) 106.07Km 19時間52分12秒 11:14
5/1(月) 85.14Km 16時間47分54秒 11:50
5/2(火) 86.97Km 18時間00分14秒 12:25
5/3(水) 98.45Km 20時間31分10秒 12:30
5/4(木) 96.34Km 19時間41分43秒 12:16
5/5(金) 95.81Km 18時間09分30秒 11:22
5/6(土) 84.65Km 16時間42分34秒 11:51
5/7(日) 78.44Km 15時間54分36秒 12:10
5/8(月) 79.21Km 14時間25分30秒 10:56
5/9(火) 96.02Km 18時間16分42秒 11:25
5/10(水) 82.26Km 16時間04分33秒 11:44
5/11(木) 82.22Km 14時間17分13秒 10:26
5/12(金) 76.56Km 14時間10分41秒 11:07
5/13(土) 94.09Km 16時間10分41秒 10:19
5/14(日) 33.01Km 5時間24分06秒 9:49
1日のスケジュールは

「朝4時ごろ起きて、前夜に買っていたおにぎりやウィダーインなどを食べて5時ごろ出発します。

7時前後にコンビニで朝食を買います。最初は弁当を食べていましたが飽きてしまい中盤以降はパンが多いです。すき家を見つければ、焼きサバ定食を食べるために好んで入りました。弁当と違って、ご飯がおいしいので朝のモチベーションアップに繋がりました。

お昼にまたコンビニで弁当や丼ものなどエネルギーの高そうなものを食べます。あまり長く休憩はしません。20分程度で再出発します。
午前10時ごろと午後3時ごろレッドブルを飲んでいました。

走って歩くを繰り返します。午前中はまだ走れる方ですが、午後からは500mも走れないことが多いですね。きつくなると20歩だけ歩きます。そしてまたゆっくり走ります。その繰り返しです。
コンビニなどで補給する以外はほとんど止まりません。昼寝したのも全行程で5,6回でした。

ヘッドフォンでは区間ラップを聴いていました。ランニング計測アプリを立ち上げ1Kmのラップタイムなどを確認していました。

宿泊地に着くのは深夜12時前後。一番遅い日は朝3時40分ごろでした。コンビニで夕食と翌日の朝食を買い、食事や洗濯などを済ませるとホテル到着から寝るまで2時間かかります。寝付きは良いですね。

レース中盤までは夕食にビールを摂取していました。リラックスするのも大切だと聞いていたので。でもラスト1週間ほどはやめました。アルコールを摂取すると、どうしても睡眠が浅くなり、翌日のペースに響くことが分かったので、レースに集中しようと思いました。」

長い長い新潟県へ入る
行動時間が20時間超えている日がありますね。

「このあたり(富山~石川)はアップダウンもあり、距離が長いので時間がかかりました。
10日目あたりでは、疲労を感じていたので無理せずにゆっくり進みました。睡眠時間が少なくなりましたが、寝ないで行動するのには慣れていたので何とかなりました。
ここがターニングポイントだったと思います。自分が最大の山場と考えていた3日連続90kmをクリアできて少し楽になりました。完走できるかもと思いました。」

故障や怪我は?

「前半の4日目あたりで足首の内側が痛くなり、かなり歩きました。前回の足を痛めてのリタイヤのこともあり不安でしたが、サロンパスを貼ると翌日には良くなり助かりました。効くんですねサロンパス。安価なのでたくさん買って、寝るときに貼ってました。」

雨は降りましたか?

「終日雨だったのは2日ぐらい。ホテルで靴を乾かしたのが2回だけです。大きな問題となる肉刺などはできませんでした。」

何を食べていましたか?

「コンビニ食が多いですね。朝はパン、昼は丼ものや弁当など。夜も弁当など。行動食はジェルやカロリーメイト。レッドブルは毎日飲んでいました。
コース上に牛丼店やファミリーレストランなどあれば寄りましたが、地元のお店などには寄ってないです。

後半になると脂肪をエネルギーにできていたのか不思議とあまり食べなくても走れるようになりました。その所為かゴール後の半月は食べても食べても体重が減り続けました。」

レシートは全て保存 4/28(3日目)の食事内容
4/28の食事内容2
観光などは?

「全く無しです。鳥取砂丘は夜だったので何も見えませんでした。一応、砂丘を感じたくて砂を触りに行きましたが、普通の砂でしたね…

日々淡々とノルマをこなしていく感じです。写真も多くは撮りませんでした。ブログもデイリーで更新していく予定でしたが、余裕がなくほぼ三日坊主でした…」

鳥取と兵庫の県境 
走っている時に何を考えていましたか?

何も考えていなかったと思います。身体の状態やペースと時間を意識して、他は特に。午前中はペース良く気持ちよく走れることが多かった気がしますが、午後は淡々と走り、日没後は睡魔と戦いながら走行していました。逆にネガティブになることもありませんでした。

この調子でいけば、いつかはゴールに着くと信じて本当に淡々と日々過ごしました。」

ゴールして何か変わりましたか?

「本当にゆっくり進んだので、これで最速記録なのかという感じです。もっと速い記録は出ると思います。
メンタル部分は成長できたかなと思います。淡々と繰り返していけば、いつかはゴールにつくというのは自信になります。

自分は幼少から走ることは好きでしたが、ランナーとしては劣等生でした。それが、小さいことを積み上げて大会最速記録を出せたというのは嬉しいですね。」

ゴール 下関にて
また走りたいですか?

「次は休暇が取れないので難しいですね(笑)。次も同じレースを走るとしたら、各地の名所や美味しいものを食べたり、楽しみながら走りたいですね。今回は余裕が無かったので。
ここまでのロングレースは初めてだったので、今はまだわかりませんがまた走りたくなるかもしれません。」

次の目標は?

「トレイルの100マイル、UTMFとUTMBを走りたいです。」

100マイルですか?短いですね(笑)

インタビュー所感

福井さんはフットレース完走記を自分のブログ(40代からの自己ベスト連発アスリート暮らし)にも執筆されています。
日々の詳細についてはそちらも確認してください。

7/9(日)に都内で完走報告会(本州縦断1521Kmを歴代1位で駆け抜けた日々を語る講演会)も予定されていますので、気になる方は参加してみてはいかがでしょうか。

謙虚に淡々とお話しされましたが、やはり最速記録は本人も嬉しそうで時折はにかんで話されていました。

まともに寝れないような多忙な日々が続くなかでも、自らの環境をポジティブに捉え、コツコツとトレニーニングを継続。日々の負荷がそのままレースにも生かされ、19日間という無休、少睡眠のランニング生活を継続できたようです。

福井さん 東京駅にて

ジャーニーランナーが増えている

本州縦断フットレースを完走するには20日前後が必要なため、これまでは一般的な会社人間が挑戦するには難しいレースでした。
しかし、昨今の休暇を促進する社会風潮から、連休に有給休暇を組み合わせれば、本州縦断を完走できるだけの時間確保はそれほど難しくなくなってきているように思います。

今年の秋にもこのレースを走るランナーがいるので、福井さんの記録を上回る人が出てくるかもしれません。

ロングレースを走れる機会は人生でそれほど多くはありません。どうせ走るのであれば、いっそ本州縦断1,500kmを走ってみませんか。

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