本州縦断1,521kmフットレース最年少最速記録を達成した今正寛インタビュー(1) スマホないと無理です(笑)

NPO法人スポーツエイドジャパンが主催する「本州縦断・青森~下関1,521kmフットレース」。筆者の知る限り1ステージレースとして日本最長レースです。34のチェックポイントさえ通過すればどのような走りをしても良く、どう進むか、どこで寝るかは本人次第。

毎年数名が参加している本大会にて今年は新記録が樹立されました。
若干21歳の今正寛(こんまさひろ)さんが樹立した最年少かつ最速記録498時間11分(20日と18時間11分)と、65歳の大川竹志さんの最高齢完走記録656時間55分(27日と8時間55分)です。

今回は初参加で初の500時間切りで完走した今正寛さんにインタビューしました。なお、本記事の一部は、今さんの挑戦を応援されていた金沢工業大学オリエンテーリング・トレイルランニングクラブ(今さんは初代部長)顧問の円井基史さんがfacebookに投稿されていた内容を加筆、転載(画像含む)させていただきました。掲載にあたり快く了承いただき謝意を表します。

本州縦断フットレースについて

フットレース
コースは青森駅から下関駅までの1,521km。日本海沿いの国道7号、8号、9号を南下します。大会種目は一気に1,521kmを走破する本州縦断ステージと、1,500kmを3分割したR7(430km)、R8(521km)、R9(572km)があります。

本州縦断ステージの制限時間は720時間つまり30日間です。開催期間は毎年4月1日から10月31日まで。エントリーしていれば、本州縦断ステージは4月1日~10月1日の間に、その他のステージは4月1日~10月20日の間であればいつスタートしても良いとされています。

本州縦断コースにはCP(チェックポイント)が34箇所設けられ、CP毎に電話やメールなどで主催者へ自己申告することで計測されます。

主催者側でのエイド、サポート、宿泊などの提供はありません。必要な物を全て背負い、日々の食糧と就寝場所を調整しながら進むレースです。

2008年にスタートした本大会は今年で9回目。今年すでに完走している今さん、大川さんを含めると、11人が完走しています。唯一、落語家の三遊亭 楽松さんが3回完走(2回以上も彼だけ)しており、女性完走者はまだいません。

レースが長時間に及ぶことから大会参加者は比較的に高齢者が多く、定年退職後にこの大会を走ると決めている人もいるほど。
毎年数名が本州縦断に成功していますが、雨、疲労、日焼け、足のトラブルなどでゴール姿が痛々しい人も少なくありません。これまでの最速記録は第1回大会の高﨑康二さん(当時60歳)が記録した513時間52分でした。

今正寛さんのフットレースログ

フットレースとその前後の記録データです。
今正寛さんはフットレース前後に大間-青森(140km)と、下関-毘沙ノ鼻(22km)の「おまけ」も走っています。本州の最北端(大間)から最南端(下関)、最西端(毘沙ノ鼻)を走破しているので、合計すると、全走行距離1743.5km、行動時間296時間12分、累積獲得高度10,296m(ルートラボ計測)という結果。宿泊場所などを記載した詳細はこちら

フットレース(青森ー下関)
日付スタート地点距離
(km)
時間時速
(km/h)
獲得標高
(m)
天気
(平均気温)
1日目5/5青森市柳川80.213h036.1450曇(15.0)
2日目5/6大館市有浦102.720h255.0623曇(13.3)
3日目5/7秋田市卸町64.110h076.3371雨後曇(14.1)
4日目5/8にかほ市象潟町60.79h316.4279晴(13.0)
5日目5/9鶴岡市美咲町78.612h166.4608晴(16.0)
6日目5/10新潟県村上市69.114h054.935曇(18.0)
7日目5/11新潟市西区山田54.911h224.84雨後曇(16.3)
8日目5/12長岡市古正寺町70.911h306.2483晴(15.6)
9日目5/13上越市新光町78.912h406.2449晴(18.3)
10日目5/14富山県入善町64.911h025.9107曇(15.7)
11日目5/15高岡市千石町47.68h235.7147晴(19.4)
12日目5/16石川県野々市市69.812h055.8178曇(21.1)
13日目5/17福井市米松65.89h566.6384曇後晴(14.8)
14日目5/18敦賀市若葉町79.815h085.3443晴(16.3)
15日目5/19京都府舞鶴市76.713h175.8572晴(18.7)
16日目5/20兵庫県養父市7712h246.2911晴(19.1)
17日目5/21鳥取市湖山町84.715h025.6514晴(17.9)
18日目5/22米子市皆生68.311h016.2115晴(18.2)
19日目5/23出雲市渡橋町71.111h436.1762晴(20.6)
20日目5/24江津市江津町62.710h256.0703曇(22.7 )
20日目5/24益田市高津89.916h115.6785曇(23.6)
21日目5/25山口市小郡上郷62.98h517.1391雨後曇(21.3)
フットレース合計1581.3270h275.89314
ゼロデイ(大間-青森)
-3日目5/2大間岬49.26h527.2366晴(9.8)
-2日目5/3むつ市赤川町68.910h486.4242晴(15.4)
-1日目5/4東津軽郡平内町22.22h497.9164曇(15.3)
おまけ(下関-毘沙ノ鼻)
22日目5/26下関市竹崎町8.43h242.546曇(22.0)
23日目5/27下関市富任町13.51h527.2164晴(22.5)
総合計1743.5296h125.910296

今正寛さんの運動歴

壮大なフットレースを完走した今さん。話を聞くと意外にも普通の青年でした。

小中学では陸上競技を続けていた。種目は走幅跳から400m、800mなどをやっていたが特に目立った成績は残していないそうです。

大学ではオリエンテーリング・トレイルランニングクラブに所属。日本学生オリエンテーリング選手権スプリント40位。トレイルランニングでは、2014年ハセツネ30km4時間51分、2015年峨山道トレイル10時間30分、2015年ハセツネで12時間34分といった成績。

同時期にウルトラマラソンも開始。ゆっくりと走りながら色々な景色を観れるところが気に入ったそうですが、2013年に走った白山白川郷ウルトラマラソン100kmでは第3関門DNF。この経験がとても悔しくバネになっているとのこと。

オールナイトで走った経験は2015年に24時間走が1回だけ。記録は136km。面白いことにフルマラソンの経験はまだ無いそうです。

月間で走る距離は約200〜300km。今回のチャレンジに向けて特別にトレーニングを積んだという事は無く、試したことといえば、50km走った翌日に20km走り体へのダメージや影響を確認してみた事ぐらい。ぶっつけ本番で、大間ー青森区間を走ってみて、このペースならいけるかも?と思ったそうです。

フットレースを走る前に100km以上走った経験は7回だけ。200km以上は経験無し。彼にとってフットレースは大きなチャレンジでした。

どうして今回のチャレンジを?

大学を中退して時間ができて、折角なので長い大会に出ようと思ったんです。フットレースが青森からスタートしているというのもきっかけで、あこがれもありました。(今さんは青森出身)

本来ウルトラマラソンは徐々に距離を伸ばし経験を積んでいくんでしょうけれど、これを逃すと次に(フットレースに)チャレンジできるのは定年後かなと。だったら時間がある今やってみようと思って。定年退職後走れる保証は無いので。エントリーしたのはスタート3週間前でした。

経験がなかったので気負いもありませんでした。ただ、完走できなくても金沢までは這ってでも行こうと思っていましたね(笑)

どのように計画を立てていましたか?

高﨑康二さんのフットレース完走記を見て大まかな日数を考えたり、必要なものを調べました。
とにかく距離が長いので足に負担をかけないよう、時間をかけて1日に60〜70kmを目処にゆっくりと進むことを考えていました。

でも、青森を出て2日目に少し舞い上がって1日で100km以上頑張ってしまい、翌日が辛かったのでそこから抑えるようにました。
1日に70km以下だと翌日に疲れがほとんど残らなかったですね。寝れば回復してました。

宿の予約は事前にはしなかったです。あまり先のことは分からないので。泊まるところは当日や前日に確認していました。
2〜3日先のことをスマホで確認しながら進みました。
ルート確認、電話、twitter、ネットカフェ、コンビニ、風呂などあらゆるところでスマホを使いました。スマホがなかったら完走無理でしたね(笑)

宿泊場所はネットカフェとビジネスホテル・民宿の割合が半々。ネットカフェは安くて良いです。
ただ、あまり寝れないところもあったので、睡眠不足で辛い時もありました。

夜間走をやったのは2回です。夜間はあぶないし眠いので何となく日中走ると決めていました。

装備について

救急用具・薬

胃腸薬(正露丸など)、整腸剤、絆創膏(キズパワーバッドなど)、消毒液(オキシドール)、包帯、保護クリーム(峨山道トレイル参加賞のプロテクトS1)、傷用テープ、湿布クリーム、エマージェンシーシート

日用品

髭剃り、ボディソープ、シャンプー、スポンジ、携帯カップ、歯ブラシ、日焼け止め、はさみ、爪切り、タオル、財布(現金、カード類)、スマートフォン、充電器、モバイルバッテリー、折り畳み傘、iPod(音楽を聞く)、大会要綱

ウェア類

帽子(RaidLight、峨山道トレイルの最年少参加賞)、ゴアテックスジャケット(モンベル・ストームクルーザー)、半袖シャツ、長袖シャツ、インナーシャツ(袖なし)(2)、アームカバー、短パン(2)、下着パンツ(2)、靴下(2)、靴(1足目アシックス、途中で新調2足目アシックスDynamic Duomax)(アシックスの2E 4Eが足に合う。足に合うこと、ソールの厚さ等を考慮)、長ズボン(休憩時に使用)、サングラス、腕時計、ヘッドライト、ザックカバー、ザック(Ultimate Direction Fastpack 20)

高﨑さんの完走記を読んで装備はできるだけ軽くしました。青森スタート時は約3kgでしたが、金沢スタート時は差し入れ等頂いたので5.3kgに増えてました。(笑)

ザックの肩に当たる部分ですか?補強などしなかったです。とくに痛くなりませんでした。

ヘッドライトは持っていて良かったです。トンネルは日中でも暗いところがあるし、歩道の無いトンネルは車に見えるように点灯していました。それでもトンネルでは身の危険を感じましたね。

寝るときに湿布を足に貼っていたので沢山買いましたね。

費用ですか?宿泊がネットカフェだと2,000円ぐらい、民宿やビジネスホテルだと5,000円前後。食費は1日2,000円程度でした。靴や靴下、湿布なども入れると全部で17万円ぐらいですね。

金沢での中間インタビュー

青森スタートして12日目の5月16日、ほぼ中間地点金沢で顧問の円井基史さんがインタビュー(この日は円井宅に宿泊)

Q:調子どう?

A:足のマメ(親指の内側と小指の周り)が少し痛いくらい。今朝(15日)走り始め、昨日捻った右膝内側が痛かったが、走っているうちに痛まなくなった。

Q:完走できそう?

A:大きな問題がなければ完走できると思う。不安なのは鳥取の手前、舞鶴-鳥取の山岳区間、アップダウンが厳しそうで、宿も少ない。鳥取市に着ければ「勝ち」(完走)が見える。

Q:毎日何を食べてる?

A:【朝】牛丼または、前日に買った惣菜弁当、コンビニのおにぎりなど
【ラン中】1-2時間のサイクルでおにぎり、揚げ物(ホットスナック)、パンなど
【夜】牛丼、または惣菜弁当(スーパーの安売り)

Q:毎日どこに泊まってる?

A:お金を節約するためネットカフェ。ネットカフェがないときはビジネスホテルなど。

Q:1日の睡眠時間はどれくらい?

A:だいたい4-5時間。宿に着いて、色々していると0時くらいになり、4-5時間寝て、起きて準備に1時間くらい掛かる。

Q:日中、眠くなって、寝ることはない?

A:途中座って、10分くらい休むことはある。

Q:宿では何をしている?

A:1.風呂、2.(宿によっては洗濯)、3.足のケア、4.1日の記録の整理、5.次の日の準備(使用するものの選択・整理、計画を立てる)

Q:もしお金に余裕があれば、食事や宿泊は変わる?

A:食事は変わらない。宿泊は、本当は毎日70kmずつ走れる場所に泊まりたい。

Q:疲れは?

A:最初の3-4日は筋肉の疲れもあったが、その後は体が慣れて、平気になった。前日の走行距離が80kmを超えると翌日の走りに影響する。前日の走行距離が60km以下だと、体は回復する感じ。

Q:TJARの選手は、レース後半年や1年はダメージが残ると言う。ここまで半分走って、やはり半年くらい疲れが残りそう?

A:1週間くらいで疲れは取れると思う。たぶん3日間しっかり眠れれば、かなり回復すると思う。

Q:新潟で田崎氏、富山で石坂氏、高岡で久世氏、しのぶさんなどと会ったと思うが、それ以前、人と話すことはあった?

A:コンビニやネットカフェの店員と一言二言交わすくらい。人と長く話す機会はなかった。

Q:晴れて暑いのと、雨と、どっちが良い?

A:雨だと萎えるので、暑くても晴れの方が良い。理想は曇り。

Q:これまで景色が良かったとかあった?

A:あまりない。

Q:途中で止めたいと思ったことは?

A:毎日思うタイミングがある。毎日1-2時間ネガティブタイムが来る。特に横を電車やバスが並走する区間では「乗りて~」と思う。逆に、無心で走れるときが良い時間帯(ゴールデンタイム)。

Q:今年、何かレース出るの?

A:ハセツネは出たい。6月1日がエントリーなので、まだゴールしていなかったら、走りながらスマホでクリック競争する。富士登山競走はクリック競争で敗れた。「第1回みちのく津軽ジャーニーラン200KM in AOMORI」に出る。「あ~、ウルトラマラソン走りて~」(※質問者、絶句)